四国遍路⑨

いとう茂

2015年03月07日 11:15


柳水庵を雨の中出発、庵の出口の左側にトイレがあり、
ここからゆっくり下っています、途中、車道と交差した遍路道の
左手にプレハブの建物があります、ここは善根宿、
歩き遍路のための無料宿泊所です。
どこに許可をお願いすればいいのか。
柳水庵は以前は坊守が住んでおられたそうですが今は無人、
そんな関係でプレハブの善根宿ができたのでしょう。
しかし、山中のここに女性一人で泊まるには相当な覚悟がいると思います。

下りはすぐに終わり上り坂に変わります、いよいよここからが
試練の上りです、70歩で深呼吸20回の休憩が50歩に変わり
そのうち30歩で深呼吸20回、これしか上れません、
下しか見るゆとりがなく足場を確認しながら一歩、一歩。
1時間ほどでしょうか、見上げると大きなお大師さんが
立っています、やっと一本杉庵に着きました。

庵の名前はあるものの建物はありません、
降る雨をしのぐ場所はなく、大きな倒木に座り休憩、
これまでに、一体何人の人がここで休憩したのでしょう。
ここからは左右内まで300M以上を一気に下り、
2キロ弱で300Mを再び上ります。
そのことを経験していますので十分休むべきなのですが
休んでいると雨で体が冷えて、かえって体力を消耗します。

10分くらい休み急な下りに足をとられないよう、ゆっくりゆっくり
下っていきます、人家が近くなり雨音とは違う川の流れが耳に入ってきます。
人家の裏沿いに歩きます、この時期は畑にも作物が少なく、
降りしきる雨だけが畑を独り占めしています。

民家と民家の間を通り、橋を渡ります、思わず覗き込みますが、
濁って何も見えません。
さぁ、と自分を奮い立たせますが思うように前に進みません。
それでも1回目に歩いた時よりは3時間近く早いペースです。
飛ばし過ぎたらあかんよ、これは自分を甘やかす言葉です。
平均で5時間から6時間、速い人で4時間、遅い人だと8時間以上、
藤井寺から焼山寺まで、わずか13キロですが、それだけかかります。

私のペースは前回は「遅い人」、今回は「普通の人」でいけそうです。
残りは2キロ足らず、しかし、ずっと上りです、ゆっくりを心がけていても
息が切れ、30歩歩くのがやっと、ハーハー言いながら、歩き、深呼吸、
その繰り返しです、頼れるのは自分と杖だけ。

そういえば、柳水庵にいた男性は一本杉庵の前で追い抜きましたが、
休憩している時にも表れませんでした。
後ろにいることは確かですが姿は見えません、前にも人影はなく、
やっぱり 一人は寂しい 雑草・・・・・です。

ここも約1時間這うようにして上り、轍のある砂利道に出ました、
見覚えのある景色です。
杉木立の林を抜けると焼山寺の駐車場の横に出ます、そこまで上りですが・・・・。
上り切ってからも少し距離があります、途中に湧水がありますが
この時期には飲む気になれません。
車で回っている人が何人か寺の方から降りてきます、かわす挨拶ですが
こっちは蚊の鳴くような声、向こうははつらつとした声。

山門前の階段を手すりを頼りに上り境内へ。
本堂には誰もいません、息を整え般若心経を朗々?とはいきませんので
大きな声でとなえます、本堂に私の声が響き渡り、彼岸まで届いている気になり、
益々、大声で・・・・・・・・これも疲れるものです。
納経所の横の休憩所でレインコートを脱ぎ、濡れたTシャツを着替えて
おにぎり2個とバナナ、それに熱いお茶、至福の時間です。
結局5時間30分ほどで上りました、前回より3時間短縮、速いだけがいいのではありませんが、
疲労の方も前回とは比べ物になりません。

そして、途中で何度も自問した「なんでこんなことしてるんやろう」という
ことも遠くに行ってしまいました、今さっきの苦しかった思いが
彼方に行ってしまいました。

ゆっくり休む時間はあります、ここから8~9キロで今夜の宿の神山温泉、
2時間余りで到着します。
それでは出発、山門から右の遍路道を行きます、途中、杉杖庵(じょうしんあん)に
寄っての行程です。

今日はこれから叙勲のパーティーがあり行ってきます。
今月はもう一つ叙勲のパーティーが21日にあります。
叙勲や褒章とは無縁の人間ですので、遠くから眺めるだけですが、
永年の功績が認められての受賞でご本人はもちろんですが、
ご家族や親せきにとっても名誉なことで、人生の主役になる日です。

誕生、結婚、葬式が主役の人間ですので、せいぜい雰囲気を楽しんできます。

夜は火まつりの松明の作成があります。
飲み過ぎないようにほどほどを心がけて・・・・・。