誰かに出す手紙⑦

いとう茂

2021年07月19日 15:10


あなたは私より4つ年上なんですね、
私の中では4歳以上の年齢差があります。
子どものころから憧れの人でした、この前グローブを持って
歩いているのを見かけましたが、様になっていましたよ。
あなたは忘れているでしょうが、子どものころ当てないから
バッターボックスに立ってくれと言われて、言われた通りにすると
初球が腹部に食い込みました、あれは痛かった。

長い間会わなかったのですが、あなたが地元に帰ってきてからは
時々、スナックで顔を合わせましたね。
酔っぱらってろれつが回らない状態で「俺みたいになったらあかんよ」
あれはどういう意味だったんでしょう。
大阪のクラブで歌手をしていたということで、歌は素人の
それとは大違いでした。
「茂ちゃんは山頭火が好きなんやな、俺は放哉のファンだよ」
山頭火も放哉も放浪していた人です、あなたと私はどこか
似たところがあるのかもしれません。

お酒が好きで体を壊しても、まだ飲んでいるのでしょう。
肝臓が悪いのか顔が黒くなってきたのが心配です。
あなたに似たのか息子は一流のベーシストで矢沢永吉の
ベースを断わって、久保田利伸のベース担当をしている、
というのが親の顔をしたあなたの自慢ですね。
資産家で大きな屋敷にも何度か遊びに行きました。
もしかするとそんな資産家の息子ということが、
あなたは嫌だったのかもしれませんね。
だから放哉に憧れていたのですか。

最近は話す機会もなく、時々姿を見るだけになりました。
外から見ているだけなので、正確かどうかはわかりませんが、
何物にもとらわれない生き方は、あなたらしくかっこいいと思いますよ。
お酒もほどほどにして、体には十分気をつけてください。
と、言っても、あなたのことだから聴く耳があるかどうか・・・・。