老夫婦と若いお母さん

いとう茂

2023年07月22日 23:20

まだ日が沈んでいない時間なのに、
車いすに乗ったご主人とそれを押す奥さんの登場です。
「まだ暑いから気をつけてくださいね」
「いつもありがとうございます」
2人そろって買い物です。
おそらく二人暮らしですから食料品の買い出しには、
それほど時間がかからないと思いますが、
冷房の効いた店内で涼んでいるのでしょう。
おぼつかない足取りで急いで歩いて、転倒でもすれば骨折の心配もあります。
ゆっくり休んでから再登場です、今度はご主人が2本杖を突いて歩いています。
脳梗塞のリハビリに懸命な老夫婦です、
「いっぱいお母さんに甘えはったらいいですよ、
めったにこの年になって逃げたりはないですから」
「あははは」奥さんの陽気な笑い声です。
思うように動かない足や手もどかしさはあるのでしょうが、
それでもどこか楽しそうに見えます。
付き添いの奥さんも笑顔が戻っています。
日常生活に楽しみを見つけられる、と言うよりも不自由な体なのに楽しんでいる。
これも悟りと呼ぶのでしょう。
続いて若いお母さんの登場です。
「こんばんわ、ご無沙汰ですね」
「子どもさんは元気にしてはるか」
「それが二人とも39度の熱でダウンです、プールに入れたのが悪かったようです。
それにしても免疫力が落ちてますわ」
「それは大変ですな、気をつけたげてや」
「熱が下がるようにとスイカを買ってきました」
「そら喜ぶわ、下の子どもさんも1歳になったんやな、6月やったもんな」
「よう覚えてくれてはりました、ありがとうございます」
「おだいじに」
「ありがとうございます、お父さんも暑いから気をつけてくださいよ」
堅苦しい個人情報も立ちはだかることができない日常会話はたくさんあります。