元警備員も忘れたころにやって来る

いとう茂

2024年06月16日 11:58

ごめんください、と大きな声がしたと思ったら、久しぶりに元警備員さんでした。
「いつもお元気ですね」
「伊藤さんも元気そうで嬉しいですわ。もうすぐ仲間入りですのでその報告に来ました」
「えっ、仲間入りって何のことです」
聞くと来週に65歳になって、前期高齢者になりますので私と同じ仲間だということでした。
日焼けして顔が黒光りしています、警備室で仕事をしていた頃とは別人のようで、今の仕事があっているようでした。
「仕事は同じところですか」
「ええ、重い荷物も持たなくてはいけなくて、きつい仕事ですが体を動かしているのが性に合っているようで、雇ってもらえるうちはやめる気はありません」
元警備員さんはこれまでにいくつも仕事を変わってきています。
建設業、接客業、飲食業、旅行業だけでなく公務員の経験もあります。
「いよいよ年金受給者ですね」
「そうなんですよ、でも受給を少し先延ばしにします。体はどこも悪くないし、嫁さんの仕事をしていますから食べるのには困りませんので」
「先延ばしの方が金額が増えますからね」
「いくつも仕事を変わってきましたから、厚生年金と国民年金が何度も入れ替わっていて、それに海外で仕事をしていた時期もあり、その間は無年金だったので、5年ほど先延ばしにするとそこそこの金額になります」
「私が今年70ですから、振り返ると65からの5年はあっという間でしたよ」
「過ぎた年月は早いですからね、要は82・3歳までは生きないとトータルで損らしいんで、そこまでが第一目標ですわ、ハハハ」
この人は大丈夫だと確信しました。
それにしても先週はお遍路がやってきましたし、今日は元警備員さん珍客ではありませんが、面白い来客です。
今月の前半はいくつもの新聞社から殺害された保護司の友人の件で取材や電話ばかりで滅入っていたので、お遍路さんも元警備員さんも大歓迎です。
元警備員さんも保護司の件には触れましたが、気乗りのしない私の心情を察したのか、お気の毒なことでしたねと、それ以上は触れず週末ごとに行くキャンプの話題に切り替えてくれました。
細かい配慮ができる元警備員さんで助かります。
先月は金曜日の夜に出発して山口までキャンプに行ってきたといいます、高速を走るとお金がかかるので地道を朝まで走って、地元のスーパーが開店するのを待って、地元の総菜を買って持って行ったおにぎりで朝食、昼間は元警備員さんは仮眠で奥さんは防波堤で魚釣り、釣れたのは小さいメバルとガシラだったそうで、クーラーに入れて持ち帰って、元警備員さんが煮付けとから揚げを作って晩御飯にしたそうです。
お遍路と同様にこちらも羨ましい生活をしていますが、代わることはできませんし、同じことをやれと言われてもできません。
近況報告が終わると、また寄りますと言って帰っていきました。
適当な期間を開けてお互いにガス抜きをして気分転換、この関係もいいものです。