イソップ物語より⑧

いとう茂

2012年08月29日 13:48

「カエルの王さま」

池の中に、たくさんのカエルが住んでいました。
があがあ、ゲロゲロ、その賑やかなことと言ったら、
まるで、アヒルの喧嘩そっくりです。
一匹のカエルが、みんなに言いました。
「俺たちみたいに、があがあ鳴いているだけじゃつまらない。
どうだい、一つ、神様にお願いして、王さまを授けてもらったら」

「それはいい。こんなにたくさん仲間がいるのに、
王さまがいないなんておかしいよ。
王さまがいれば、何でもすぐに決められる」
そこで、みんな揃って神様の所へ行きました。

「神様、わしらにも、素晴らしい王さまを授けてください」
神様は、びっくりして、カエルたちの顔を見ました。

間抜けな顔をずらりと並べて、目玉をきょろきょろ。
利口そうなカエルは、一匹だっていません。
「いいか。王さまというものは、授けてもらうものではなく、
仲間から選ばれたものがなる。よく相談して、
みんなの中から王さまを選ぶがよい」

「と、とんでもない。わしらの中には王さまに
なれるような立派な奴は、一匹だっていません」
「なんて情けない奴だ。そんなものには王さまはいらない」
神様は怒って、横を向いてしまいました。
すると、カエルたちは神様を囲んで、
があがあ、ゲロゲロ、火のついたように鳴き出しました。

「わかった。わかった。なんでも授けてやるから池へ帰って待て」

さて、池へ帰ったカエルたちは、いっせいに天を仰いで、
があがあ、ゲロゲロ。
王さまが来るのを今かと待っています。
そのうち、天から大きな棒が落ちてきたかと思うと、どっぽん!
ものすごいしぶきをあげました。

「ああ、驚いた。全くすごい音。
こりゃ、きっと素晴らしい王さまに違いない」

カエルたちは、恐る恐る顔を出しました。
しばらく棒を眺めていましたが、そのうち棒の上へ飛び乗りました。

「何だい、こりゃ。何も言わないで、浮かんでいるだけじゃないか」
がっかりしたカエルたちは、また神様の所へ行きました。

「あんなのが王さまじゃ、やり切れません」
すると、神様が言いました。
「あれでも、お前たちには立派な王様だ」
「とんでもない。王さまは、ぷかぷか浮いているだけで、泳ぐこともできません」

「よし、よし、わかった」
しばらく考えていた神様が言いました。
「では、飛び切り立派な王さまを授けよう。
明日の朝、みんな揃って待つがよい」

さて、次の朝、池は大変な騒ぎです。
「早く、王さまの顔が見たいものだ」
「飛び切りの立派な王さまって、どんな王さまかな」
カエルたちは一匹残らず天を仰いで、王さまの来るのを待ちました。

すると、ヘビが落ちてきて、いきなり一匹のカエルを飲み込みました。
さあ、驚いたカエルたち。
あわてて飛び上がったり、水にもぐったり。

「た、助けてくれえ・・・・」
でも、ヘビは毎日カエルを飲み込み、とうとう
池のカエルを一匹残らず飲み込んでしまいました。


こんな池のカエルにはなりたくないものです。
間抜けなカエルたちでも、自分たちで王さまを
選んでいたら池で、毎日楽しくがあがあ、ゲロゲロ。

うがったものの見方かもしれませんが、カエルによらず、
人間でも、リーダーなんて存在しないと言っているのでしょうか。
自分たちで選んだ以上、自分たちで責任を持てと。
凶暴な王さまよりは無能な王さまの方が国にとっては安泰
なのでしょうか。