2012年11月02日

6年4組物語⑫

この物語はフィクションであり
登場人物は架空の人物です。


いよいよ9月4日になりました。
普段よりクラス全員の顔が生き生きしています。

チャイムが鳴って田川先生が入ってきました。
「おはようございます、これから修学旅行の
行先の発表会を行います、事前にコースの概要が
発表者から出ていますのでみんなに配ります」

コースのプリントが配られクラスがざわついています。

「それでは、委員長の北川君に進行を任せます」
「はい、コースの発表の順番ですが、1番目は山田君、
次に井川君、3番目が角田君、最後に私が発表します
発表が終わったら各自行きたいコースを発表した
人の名前を書いて投票箱に入れてください、
38名ですので過半数の20票を獲得したコースに決定します、
過半数に足りない場合は、上位2コースで決選投票を
行います。この予定でよろしいですか」
「異議なーし」
「それでは、山田君お願いします」

静かな拍手がおこりました、クラスのみんなも緊張気味です。

「えー、僕は最初太平洋側から本州を横断して
日本海を通って帰ってくるコースでしたが、
通る県が多くなるので、太平洋側に絞りました。
それでは発表します。出発はちょっと早いのですが、午前4時です。
結構きついと思いますが、あとのことを考えるとこれしかありません。
学校からバスに乗ります。
バスで、新名神を通りで静岡まで行きます。
三重、岐阜、愛知、静岡の4県を通ります。
静岡で見学するところは3カ所の予定です。
最初は登呂遺跡に行きます。
出発が早かったので、ここで朝食を食べますが、
各自、おにぎり弁当を持参してください。
この先ごちそうを食べますので、
少しでも費用を浮かせたいと思っています。

登呂遺跡で時間調整をして、次は、東海大学の海洋科学博物館。
ここが開く10時に合わせて入館を考えています。
この施設は水族館で、珍しい魚やサメがいます。
海遊館ほどの規模ではありませんが、見学する価値はあると
思っていますので、カメラも忘れず持ってきてください。

水族館の見学は約1時間です。ここを11時過ぎに出て、
富士山のふもとにある、ぐりんぱに行きます

聞きなれない所ですが、ここは遊園地です、
ウルトラマンをメインにした遊園地で、
ウルトラマンセブンコースターとかウルトラトレインといった
乗り物があります。昼食もここになりますので、
昼食は名物のウルトラマンカレーを食べます。
お土産もたくさん売っています、
もちろんウルトラマングッズも豊富です。
たくさんお土産を買い過ぎて、小遣いが無くならないよう
気を付けてください。

出発は3時の予定です。その後、神奈川に入り横浜に行きます。
山下公園、外人墓地、横浜マリンタワー、
他にもたくさん名所がありますので、もしこのコースに
なったら、旅行社の人と調整をしたいと思っています。
宿泊も横浜です。夕食は、もちろん中華街です。
夕食の後、夜景を楽しむ予定です。

2日目は、6時に出て、築地でお寿司の朝食です。
とれたての魚を握ってもらって食べるか、回転ずしにするか
これも、予算と相談です。築地の市場ではマグロの解体が
見られればいいのですが、大勢なので無理かもしれません、
その場合は市場の事務局の方に場内の案内をしてもらいます。

そして、六本木ヒルズ、靖国神社、あと国会議事堂です。
六本木ヒルズと国会議事堂は時間のこととセキュリティーの関係で
中に入らずにバスから見ます。

午前中に銀座を散策して、昼食は浅草で江戸前うなぎ
にしたいと思います。もんじゃ焼きも考えましたが、
うなぎの方が人気がありそうなのでうなぎです。

たぶん3時ごろになると思いますが、浦安のディズニーランドに行きます
夕方まであまり時間がありませんが、ディズニーには
3日目の3時ごろまでいる予定ですので、時間的には
大丈夫だと思います。
そして、泊るところは少し離れたビジネスホテルになります。
夕食もファミレスですませます。

3日目のディズニーでも昼食はマクドです、ここまで費用を
かなり使ったので仕方がありません。
帰りは成田空港から伊丹で、学校には8時ごろに
着く予定です。これで発表を終りますが、通る県は、
三重、岐阜、愛知、静岡、神奈川、東京、千葉、それと大阪、京都の
9県です。
僕のコースの売りは、二つのテーマパークと中華、寿司、ウナギ
という、グルメです。支持をよろしくお願いします。」

「ありがとうございました。みなさん山田君に拍手を
お願いします。  次、井川君よろしく」

「はーい、僕は東北支援です。
この前、72時間以内なら大丈夫だと田川先生から
聞きましたので、目いっぱいのコースを考えました。
夜の9時に学校をバスで出発します。
休憩と仮眠をとりながら、北陸道を福井、石川、富山、
新潟まで走ります。かなりの距離と時間ですので
夜食を忘れず持ってきてください。
それとはしゃいで眠らないと次の日がしんどいので
少しでもいいので眠るようにしてください。

新潟には仮眠もするので朝の7~8時の予定です。
道の駅併設の新潟ふるさと村で朝食を済ませて、
ばかうけ展望室に上って、地上125mの所から
新潟市内や日本海を眺めます。
お天気が良かったらきっときれいな景色が見られると思います。

その後、出雲崎の良寛記念館に行きます。
良寛は書の達人と言われていますし、
何か得られるものがあればいいと思います。

遊び感覚はこのあたりまでですので、充分
はしゃいでおいてください。
これから先はお遊び感覚は持ち込まないように
お願いしておきます。

そして福島県に入ります。
猪苗代湖で見学と昼食、会津藩の武家屋敷の見学をします。
宿泊は福島市内で一日目は終了です。

二日目は早朝に宮城県に入り、仙台まで行きます。
7時に出れば9時過ぎには着くので、仮設住宅で暮らす
おじいさんやおばあさんの慰問と
向こうの小学校の人との交流会を考えています。
夕食は塩タンを食べたいと考えていますが、
向こうの事情でバーベキューとかカレーになることも考えられます。

僕のコースは東北支援ですから食べるものは期待しないでください。
宿泊も仙台市内の予定ですが、避難所か仮設住宅の可能性もあります。
東北支援に行くのですから、そこのところは理解してください。

三日目は、ガレキの撤去か一人暮らしのおじいさんか
おばあさんの家の後片付けを手伝おうと思います。
向こうの小学校と交流ができればそれに代えることも可能です。

二日目と三日目の入れ替えは可能です。
三日目も食べるものは期待しないでください、
委員会でも言いましたが、東北の人たちの笑顔が最高のごちそうです。

そして3時ごろに仙台空港を離陸して伊丹に帰ってきます。
1日目以外ほとんど、お土産を買う時間も場所もありません。
ですから、仙台空港では多目に時間をとって、
お土産を買う時間を作りたいと思います。

それと、仙台での二日間は食事もまともなものが食べられない
可能性がありますので、お土産の時間に加えて食事の時間も
考えています。

付け加えておきますが、放射能の心配はあるともないとも言えません、
目には見えないものですので、それにいつも測定器を
身に着けているわけでもありません。
ただ、放射能汚染を心配している僕らと同じ日本人がそこで暮らしています。
そのことで僕が言おうとしていることをわかってください。

学校には9時までに着く予定で、通る県は、
福井、石川、富山、新潟、福島、宮城、大阪、京都の
8県です。
行く前には応援メッセージを全校生徒の協力で
作って持っていこうと思います。
これで、僕の発表を終ります」

拍手はあるのですが、ヤジや歓声はありません。
みんな、どうやら真剣に頭の中でコースを
考えているようです。

「ありがとうございました、それでは角田君お願いします」

「それでは発表します。
まず、学校を出て、名神から東名で名古屋空港まで行きます。
学校を出るのは10時です。13時30分の福岡行きに乗って
14時50分の到着予定です。
その日は時間がないので門司に行って、福岡に泊まります。

それで、2日目は、ナムコワンダーパーク、太宰府天満宮で、
午後1時くらいに佐賀を通って長崎に行きます。
時間の都合で、先に大宰府に行きナムコになると思います。

長崎では、ちゃんぽんか皿うどんの昼食、
ちょっと遅めの昼食ですが、その後、大浦天主堂か浦上天主堂、
それとオランダ坂とグラバー園。
西海橋で夕日を見て、夕食は長崎新地中華街で
中華にします。
神戸や横浜の中華街も有名ですが、古くから
中国と交流があった長崎の中華も、きっとおいしいと思い決めました。

宿泊は島原で、これは次の日に熊本までフェリーで渡るためです。
なるべく早い時間に熊本市内は通り抜け、
国道57号線で阿蘇山に向かいます。
次は、国東半島の磨崖仏の見学を考えています。
時間的に国東半島が無理なら、高崎山の後、
別府温泉で地獄めぐりと日帰り入浴をします。
帰りは別府から大阪までフェリーです。
フェリーなら、旅行の思い出をみんなで車座になって話しできるし、
夜の瀬戸内海から見る星空もきれいだと思います。

72時間なら九州で2泊できますし、フェリーを入れると3泊です。
3泊の修学旅行が僕の自慢です。
飛行機で費用を使った分はフェリーで穴埋めをします。
フェリーのレストランならみんなの好きなものが食べられるし、
予算は決まっていても、最後の食事なのでおいしく
楽しいと思います。
大阪からは京都を通って学校に帰ってきます、
通る県は、岐阜、愛知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、
大阪、京都の9県です、これで発表を終ります」

「みんな、角田君に拍手をお願いします」

「それでは、最後に僕からコースの発表をします。
その前に、言っておかなければいけないことがあります。
これから発表するコースは本当なら杉田さんが
発表するはずでした。
でも、この前、杉田さんを応援する塚田君たちから
コースの発表はできないと言われました。
これは僕だけでなく、委員会の委員全員にです。

クラスの全員で委員会を作ってそこで案を出し、
全員で決めようということでスタートしたことですから、
それに、そのことは杉田さんや塚田君たちも最初に
了承していますので、あえてここで僕が杉田さんのコースを
発表します。
これは決して杉田さんたちへの嫌がらせではなく、
途中までは杉田さんも一生懸命意見を出して
自分でもコースの提案をしてくれました。

何があったのかは知りませんし、知ろうとも思いませんが、
全員でスタートし全員で決めるということを重視したいので
ボツにせずみんなに知ってもらいたいと思いました。
コース自体もなかなかいいコースだと思いますので
今話した事情とは別のところで、こだわりを持たずに
聞いて、判断をお願いします。

それと、言いえて妙かどうかわかりませんが、
この前読んだイソップ物語にこんなのがありました。
題名はライオンとイルカというものです。

『ある日のことライオンが海辺を歩いていると、 
イルカが悠々と泳いできたので、
ライオンが声を掛けました。

キミは頭がよく、動きも敏捷なので、
海の王様にふさわしい。
ボクは陸の王様だ。
ボクたちが手を組めば、海も陸も怖いものなしになるよ。

イルカは喜んで手を組む約束をしました。
そして数日後。
ライオンは大きな牛と戦うことになり、
イルカに応援を頼んだのです。
しかし、イルカは助けに来ませんでした。
海の中なら自由に泳げても、
陸に上がることはできなかったからです。

あれだけ約束したのに、ボクが困っているときに
助けに来てくれないなんてひどいじゃないか。
もう、キミのことは信用しないぞ。
この裏切り者め!

ライオンの文句にイルカはこう答えました。

文句なら神様に言ってくれ。
ボクが陸にあがれないのはボクのせいじゃないんだから。』

どこか、今回の杉田さんたちのここと重なる
気がします。イルカは陸では生きられないという
現実的な話ですが、心の中に壁を誰かに作られる
そのことは、自分の意志で拒否もできると思いますが・・・・。

自分たちの修学旅行を自分たちで
決めることができない人がいることについて、
怒りよりも可哀そうといった憐れみを感じるのは
僕だけではないと思います、後戻りができないのなら
前を向いて進むしかないのです。
今日決まったことは全員で決めたことです。
その自覚だけは持ちたいと思います」

かなり長くなりましたので、続きは次回に・・・・。

Posted by いとう茂 at 12:29│Comments(0)
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