2016年03月18日

久しぶりに抜粋のつづり

昭和6年生まれの女性作家、是非はともかく結構物議をかもす人。
これで、あの人と思い浮かぶ方は、それなりにファンなのでしょう。

「入院で治らぬ病」

私の同級生が私と同様年をとっているのは当然だが、私の年下の
「若い友達」が70代になっているのには時々笑うことがある。
先日もヨーロッパへ出かけるとき「曾野さん、気をつけてくださいよ。
また転ぶと足を折るから」と忠告してくれる人がいたので私は
「大丈夫ですよ。私は一番老人ですから、威張って突っ立っていて、
若い人にカバンなんか運んでもらいますから」と言ってふと考えてみると、
グループの中で一番若い人が70歳だった。
今では、ごく自然に70代が若く感じられる時代になったのである。

私は10年前に怪我で入院しただけで、内臓の病気でまだ病院の
お世話になったことはないのだ。
私の同級生は、あちこちの不調で入院し、治療を受けてよくなって
退院するが、そのどれもが、ほんとうの原因も治療法もわからず
家に帰ってくる場合が多い。
「お年ですからね」と言われたり、「体重を減らしてください」
と言われたりするのを、笑いながら怒っている人もいる。

いい病院でも、今の医療制度ではおかしなことだらけだ。
最近入院した夫は、入ってまもなくは「この病院のご飯はおいしい」
と言いながら、やがて何も食べなくなった。
もともと食欲がなくて食べないから入院させたので、毎日おかずを運ぶ。
当人は「病院のご飯と言うものは、まずくて当たり前だ。
だから僕は満足している。」と言いながらお盆ごと返すようになった。
持参のおかずをやっと少し食べている夫に向かって看護師さんが、
「糖尿がありますからあまり食べないでくださいね」と言う。
確かに餓死すれば糖尿も治るだろう。

すたすた歩ける夫のような患者をリハビリ室まで車椅子に乗せて運ぶ。
転倒を恐れて一人で歩かせてくださらないので、私は一日も早い退院を望んだ。
軽い脱水症状は治っても、今までどこへでも一人で出かけていた人が
歩けなくなり、無刺激で頭が惚けて帰ってきたら、全体としては
改悪されて退院することになる。

退院が近くなると、瞬時に悪口を言う独特の悪癖が嵩じた。
治癒の兆候だ。
待合室で、「この病院は『少々お待ちください』が15分。『しばらくお待ちください』
が30分。『まもなく参ります』が1時間だ」と嬉しそうに言う。
私たちの隣にいたお年寄りのご夫婦の付き添いの奥さんが思わず笑い出した。
しかし彼は感謝を忘れなかった。
退院して数日後に、70代以上が4人揃ったうちで、ご飯を食べながら喋った。
夫が10日あまりの入院で帰ってこられたのを「若い友達」が喜んでくれたのである。

「オーバーセブンティ」ばかりのその夜の客が言うには、「死ぬまで治らない三大
死病」があるのだという。
頭の悪いこと、顔やスタイルが悪いこと、根性が曲がっていることの3つで、
これだけは名医のいる有名大病院でもそもそも治してくれる科がない。
笑うことが最大の薬らしい。





Posted by いとう茂 at 22:05│Comments(0)
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