2016年03月29日

昔、昔あるところに アゲイン

ブログを始めて4年以上が経ちますが、以前に連載した
昔、昔あるところにをもう一度読みたいという声を複数の方からお聞きしました。
私もかなり前のことでしたので、投稿したブログを調べてみました。
アクセスのランキングも昔、昔は結構多く内容はともかく、見捨てずに
覚えていただいていたことに改めて感謝申し上げます。
いくつかのブログをまとめましたので、ボリュームがありますがアップします。
なお、ストーリーも登場人物もすべて架空のものです、勝手に想像して
作った話ですので、お間違えのないようにお願いします。

「昔、昔あるところに」

昔、昔あるところに武腰という5人の家族がいました。
お母さんの名前は、武腰尚代、お父さんの名前は武腰昭雄、長男は武腰裕一、
長女は武腰朋美、気のいいおじいさん武腰七衛門の5人家族です。
一家団欒の夕食の時に、お母さんが外食の提案をしました。
回転寿司、焼き肉、パスタ、中華…。
大いに盛り上がりました。
ハチの巣をつついた様な状態の中で、お母さんが言いました。
「焼肉はどう?」
息子も娘も大賛成です。
「お母さん、中華にも中華風焼き肉もあるけどホンマの焼き肉?」
息子は念を押しました。
「そうやで、ホンマの焼き肉」
きっぱりお母さんは答えました。
これで決まりです。武腰家では全員参加で決めたことは勝手に変えることはできない
ルールになっています。
変えるなら全員の同意が必要になるのです。
本当は、中華もバリエーションが広いので、捨てがたいものがあったのですが・・・・。
焼肉のあの匂いにみんなの心が決まりました。
普段は無口なお父さんも笑顔です。
気のいいおじいさんは、食べられるのなら何でもいいのでもちろん反対はしません。
財布のひもをしっかり握っているお母さんの提案ですから、息子も娘も焼き肉を信じて疑いません。
娘が待ちきれずに
「お母さん、いつ行くの」
お母さんはにこやかに
「今度の日曜に連れて行ったげるさかい、楽しみにしとき」
それを聞いた息子も娘もルンルンです。
お父さん的には回転寿司で熱燗もいいかと思っていましたが子どもたちが喜ぶのなら、
塩タンとミノに生ビールで得心しています。
おじいさんは胃袋に入るものなら文句はありません。
事件が起きたのは金曜日の夜でした。
お母さんが中華レストランのパンフレットをみんなの前で出したのです。
口火を切ったのは息子でした。
「この前、全員で焼き肉と決めたのに約束違反と違うん」
「中華風の焼き肉もあるでっていうたら、ホンマの焼き肉やて、
言うたんお母さんやで、僕はちゃんと確認したんやで」
すると、お母さんは
「焼肉はどう?といったけど、焼き肉とは言い切ってないし、
誤解を与えるようなことになったけれど、みんなが中華でいいと
言ってくれるなら中華になるんやけど・・・・。」
娘もそれを聞いて黙っていません。
「そんなん、だましとるんちゃうの、うちの家のルールはどないすんの」
「今日学校で、日曜日は焼肉やっていうたら、みんな羨ましがってたのに、
みんなにどう言うたらええのよ」
顔を赤らめて目もうるんでいます。
よほど悔しかったのでしょう。
それを見たお父さんも、かわいい娘のために一言・・・・。
「なめたらいかんぜよ」
ドスのきいた、鬼龍院花子の夏目雅子のような声でした。
不穏な空気を察したつもりか、おせっかいからか、おじいさんがお母さんの肩を持つ発言をしました。
「お母さんは中華がええかと思ったんやなぁ、わしは特別こだわりはないぞ」
まぁ、間の悪い・・・・。
「悪いのはお母さんやで、じじいは引っ込んどけ、どっちの味方や?」
3人の目がそう語っています。
お母さんは何を食べても、トイレで出してしまえば同じと考えているのかも知れませんし、
焼き肉より中華の方がヘルシーだと考えたのかも知れません。
そのあたりが、無頓着というか場当たり的というか、天真爛漫というか考えが浅いというか・・・・。
折に触れて注意はしているのですが・・・・もしかすると天然。
さてさて結末はどうなりますことやら・・・。
いくら財布のひもを握っているとはいえ、お母さんの身勝手さは目に余る気がします。
個人的には、お母さんがパンフレットを破りごめんなさいと謝って、焼き肉に行くしかないと思います。
でないと、今後の家族関係に決定的なヒビが入らないとも限りませんし、
何より、みんな、いえ、おじいさん以外はお母さんの言うことを聞かなくなる恐れが大きいと思います。
皆さんはどう思いますか。
武腰家の金曜日の夕食は険悪な空気が漂っていました。
みんな一言も話さずに夕食を済ませると、さっさと自分たちの部屋に消えてしまいました。
土曜の朝、お母さんがみんなの前で身勝手な行動を謝り、新たな提案をしました。
「外食の件は昨日の雰囲気では、明日出かけてもあまり楽しくないでしょうから
チョット時間をくれる、じっくり考えるから」
昨日の今日で、長男はまだおさまらないみたいで「時間をくれるっていつまで、
さっさと決めてもらわないと」
お母さんは「来週の木曜日にはプランを出しますよ」
お父さんが念を押しました。
「お母さんの提案を全員で検討して決める、今度は、お母さんも決まってから
ブレたらあかんで、裕一も朋美も意見があったら言うたらええけど決まったらそれに従うんやぞ」
裕一が「それはええけど、決まらへんかったらどうするの」
「決まらへんかったら中止やな」
お父さんが雄弁です。
「わしは何でもええよ」
おじいさんがそう言うと、朋美が一言
「いつものことやんか」
みんなが待ち望んでいた日曜日は、いつもと同じ日常の日曜日でした。
非日常の焼き肉を期待していた家族にとって少し後味が悪い日でしたが、
一つ屋根の下で暮らす絆は固いとお父さんをはじめ全員が感じていました。
別にお母さんを悪者にしょうとは誰も思ってはいないのです。
ただ、日曜日の焼き肉が中止になったのはお母さんがぶれたからに他なりません。
その、お母さんも家族のために良かれと思って中華レストランのパンフレットを見せたのでしょう。
そのことは家族も理解しているようです。
月曜日の夕食の時に長女の朋美が聞きました。
「お母さん、決まった」
するとお母さんは「ごめんね朋美、裕一もお父さんもおじいちゃんもごめんね、
悪意があったんと違うんよ、お母さんはみんなが喜ぶ顔が見たかっただけやねん」
裕一も、朋美もおじいちゃんもしんみりしています。
「お母ちゃん、俺言い過ぎたみたい、ごめんな」
朋美もうなずいています。
その時でした。お父さんが
「お母さん、意識して人を傷つけることを言うのは、言う方も覚悟して言うから、
言った人の心にも傷が残るけど、無意識に発した言葉や思慮の浅い行動で人を
傷つけることもあるんやで、お父さんは、知らないでやったことも、罪深いことやと思うで、
お母さんを責める気はないけど、お母さんはこの前、みんなに謝ったけど、
心の中に、トゲが残っていたんか、気持ちがこもってへん気がしたんや。
今朝のは、いつものお母さんやったで、あー、反省してんにゃなぁと思うたわ。
この前、こんな雰囲気やったら出かけても楽しくないやろうと言うてたけど、
楽しくない雰囲気を作ったのはお母さんなんやで、そのことも心しとかんと、
あかんのと違うかな。これは、何もお母さんだけと違うで、お父さんもそうやし、
みんなもそうや、これからも長い間この家でみんなで暮らしていかんとあかんのんや、
見えへん所、聞こえへん所にも気を付けていこうな。
うちのルールは全員で決めるということや、決めたことには全員で
責任を負うということでもあるんや、わかるやろ」
いつもは無口なお父さんですが、決める時は決めます。
「お父さんありがとう、やっぱりお父さんは大黒柱やわ」
「裕一も、朋美もお母さん任せにばっかりせんと、お前らも何が食べたいのか言うたらええんやで」
「お母さん、俺、中華でもよかったんや、ただ、みんなで決めたということを尊重したかったんや、
意地と違うで、これを崩したら何でもアリになってしまうやろそれが厭やったんや」
今まで黙っていたおじいさんが言いました。
「何でもええけど、そろそろ食事せえへんか」
「たまにはええこというやん、やったらできるやん」
「朋美にはかなわんなぁ、ハハハハハ」
武腰家に普段の笑いが戻りました。
「お母さんせかんでいいよ、その代わり、いいとこ探してね」
朋美が笑顔で言いました。
お父さんも「そうや、せかへんから、じっくり考えてや」
こんな家族と暮らせることに感謝せんとあかんと感じ、普通の日常もいいなと思う裕一でした。
武腰家の長女の朋美が、おじいさんの七衛門に尋ねました。
「おじいちゃん、根回しって言葉の意味知ってる」
「朋美は難しい言葉知ってるな、あのな、根回しというのは、ねまわしとちごうて、
こんまわして言うんや、根気ていう言葉知ってるやろ、あのこんや。」
「そんで、どういう意味なん」
「子供は知らんでええ、小学生のくせに朋美はませてるな」
「おじいちゃん、ホンマは知らんのやろ」
「ワシを馬鹿にしたらあかん、昔は寺子屋で子供に勉強教えてたんやぞ」
「ふーん、おじいちゃん江戸時代の生まれか、見かけ通りやね」
「朋美、それどういう意味や」
「鏡見てきぃな」
「・・・・・・・・」
朋美は納得がいきません。
お母さんの尚代に聞きに行きました。
「おかあちゃん根回してどういう意味なん」
「朋美、難しい言葉知ってるんやな」
「根回し言うたら、ほれ、これや」
「なんや、携帯のストラップやんか、それが根回しなん」
「そうやで、お母ちゃんのこれヨン様やで、お父ちゃんと違うて、えらいカッコええやろ」
「どうでもええけど、ヨン様てもう古いで、せやけど、さすがお母ちゃんやわ、
おじいちゃんに聞いたら、こんまわし、ていわはるんやで」
「おじいちゃんの言うことはあんまり信用せんほうがええでこの前も、
頭が痛い風邪かないうて、角の薬局に行ってくるわていわはるし、
頭痛やったらジキニンがええでていうたら、薬局でジキニンて言わんとカクニンて
言うたらしくて、薬局からジキニンでええか確認の電話があったんやで」
「ふーん」
その日の夕食の時でした、朋美が父の昭夫に突然
「お父さん携帯電話見せて」と言いました。
急な振りで、お父さんは別の意味で慌てましたが、そこはそれ、やんわり
「なんで」と返しました。
朋美は「携帯の根回しを見せてほしいねん」
得意げに言いました。
「あー朋美、根付けのことか」
急にお父さんは安心した様子です。
普段、ボーッとして感受性が鈍いお母さんの目がキラッ。
そうとも知らずにお父さんは、雄弁に話し始めました。
「朋美、これはストラップや、根付けも似たようなもんやけど、
昔の人は煙草入れとかにつけて帯に挟んで落とさんようにしてたんや」
「お父ちゃん、それ根回しと違うの、根付けて言うんか」
「そうやで、根回し言うのはな、朋美、植木を植え替えるときに地面から
抜いてすぐに植え替えると、抜いたときに根が傷んで木が弱ってるさかいに、
根をぐるっと回して土を詰め込んで荒縄で縛って根が元気になるまでじっとさせとくんや、
人間でいうたら、怪我したら包帯で巻いておくやろ、あれと同じで植木を枯らさんようにする植木屋さん用語や。
今では、物事をあんじょう進めるために事前にいろんな所に手を回しておくことに使われて、
人によったらあんまりええ意味やないと思うてる人もいるけどホンマは違うんやで」
「やっぱり、こんまわしとちごた、お父さんさすがやわ、おじいちゃんもお母さんも勉強になったやろ」
おじいさんは禿げ上がったおでこを真っ赤にしてうつむいています。
お母さんもバツの悪そうな顔をしています。
朋美が二人の顔をじっと見つめています。
お母さんが「私、根回し嫌いやねん」
ポツリと言いました。
武腰家の日曜日です。
父親の昭夫は、早朝から釣りに出かけました。
母親の尚代は、町内の一斉清掃で不在です。
家には長男の裕一と妹の朋美、それにおじいちゃんの七衛門の三人だけです。
おじいちゃんは縁側で新聞を読んでいます。
裕一と朋美はトーストと牛乳で朝食を食べています。
「ごちそう様、お兄ちゃんどっかいくの」
「昼から公園に行くかも知れん、朋美は」
「私は家にいる」
食器を流しに持って行き、二人は時間をどうしてつぶすか考えていました。
「朋美、宿題は済んだんか」
おじいちゃんが声を掛けました。
「もう少しだけ、あとでする」
「そうか、朋美、すまんが肩をたたいてくれんか」
おじいちゃんは肩が凝るらしく、時々、朋美に頼みます。
「ちょっとだけやで」
「すまんな」
「おじいちゃん何読んでるの」
「ちょっと面白い記事があってな」
「何?」
「うん、朋美、同期の桜て聞いたことあるか」
「ないわ、何それ」
「その同期の桜のことが新聞に載ってるんやおじいちゃん、なんか懐かしいてなぁ」
「昔、日本の国が戦争したことがあるんやで」
「それやったら聞いたことあるわ、二度と戦争したらあかんのやろ」
「そうや、よう知ってるな」
「先生が言うてはった、南の島や特攻隊でいっぱい死なはったんやろ」
「そや、そや、おじいちゃんは戦争に行ってへんけど、戦争にいかはる言うたら、
村中の人が万歳、万歳言うて、小旗を振って送ったもんや」
「先生な、戦争あかんいうて学校でも君が代の時立たへんにゃて」
「それはちょっと・・・・・朋美はちゃんと立たなあかんで」
「わかってる、朋美の声大きいんやで、この前、お父さんとお兄ちゃんと三人で
カラオケ行ってな、お父さんがカラオケで君が代歌てはって、点数が96点やったんや」
「おとうさんやるやんけ」
「そんでな、次に朋美も君が代歌ってん、そしたら、おじいちゃん朋美97点やってな、
お父さんがっかりしてはったわ」
「大きい声でたんやなぁ、そうやったんか、そんなら安心や」
「おじいちゃん、さっき言うてた同期の何んとかてどういう意味なん」
「せやせや、それやったな、同期の桜言うてな、海軍でも陸軍でも兵隊さんが歌ってはったんや」
「どんな歌なん」
七衛門は、貴様と俺とは同期の桜~ 同じ航空隊の庭に咲くぅーと歌いだしました。
「おじいちゃんもうええわ、歌へたやなぁ」
「すまん、すまん、今のな、航空隊を兵学校とか戦車隊、部隊に代えて歌ってたんやで」
「ふーん、で、それが何なん」
「朋美、昔、おじいちゃんのお父さんに買うてもろた少年倶楽部ていう本にな、
同期の桜の子どもバージョンが載っててな、おじいちゃんらみんなで歌うたもんや、
ええか、音痴やけど聞いときや」
「君と僕とは二輪の桜ぁ 積んだ土嚢の陰に咲くぅ どうせ花なら散らなきゃならぬ 
見事散りましょ 皇国のためー」
「おじいちゃん、初めて聞いたわ」
「あの頃はな、日本中が戦争一色やったんや、誰もそれをおかしいとも思うてへんかった、神
の国の日本が負けるはずないと思うてたんやな」
「そんで、原爆落とされて負けてしもうたんやろ」
「そうや、せやけど苦しかったんは負けてからや、食べるもんないし、お金もあらへん、
着るもんもあらへん」
「おじいちゃん苦労したんやな」
「おじいちゃんだけやあらへん、みんな苦労したんや」
「そんでこの前、焼き肉でもめた時も、おじいちゃんは何でもええて言うたんやな、
そう言うたら、おじいちゃんいつも何出されても、おいしい、おいしい言うて食べるもんな、
戦争で苦労したんやな。朋美な、おじいちゃんのことちょっと見直したわ」
「そうか」
「時々、わけのわからんこと言うけど、朋美はおじいちゃんのこと好きやで」
「おおきに、おおきに朋美ぐらいやわ、そんなこと言うてくれるの」
「肩もんでくれた駄賃に100円やろ」
「おじいちゃんこの100円おかしいで」
「アーそれは前の100円や、この前出たやつは桜やけど、これは鳳凰や、
せやけどどこでも使えるさかい心配せんでええで、無駄遣いせんように
郵便局に貯金しとくのもええけどな」
「ありがとう」
昭夫夫婦がいない日曜日、七衛門は思わぬ形で名誉回復をしました。
長く生きていることはそれだけ経験があるということです。
親から子へ伝えるものもありますが、祖父から孫へ伝えるものもたくさんあります。
例えば、介護だってそうです。
お母さんがおじいさんの介護をするのを見て育った子どもの心にはいたわりや
思いやりがしっかり根付いていると思います。
それが、成長して他者を思いやる優しさとして花開くことを願います。
この先、家族の前でへまをしたときに朋美が盾になってくれるか保証はありません。
子どもは無邪気で残酷な生き物だから・・・。
七衛門の活躍を期待したいと思います。


Posted by いとう茂 at 14:55│Comments(0)
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