2021年09月05日

逃げない 番外編

その子との出会いはもう何年も前のことです。
どんな罪を犯したかは書けませんが、最初にその子の家に行って
保護観察期間中の遵守事項等の話をして、
帰り際に「頑張ろう」と握手をしてから保護観察解除の
知らせを届けに行って「よく頑張ったね」と握手をするまでの
期間は長いものでした。

これまでにも未成年の担当はいくつかありましたが、
面談は月に2回、その子は一度も遅れたり
忘れたりせずにやってきました。
最初は無口な子でしたが、
面談の回数を重ねるごとに打ち解けて
口数も増えました。
劇的に、というと少し大げさかもしれませんが
話が弾んで、その子が家庭や自分のことなどを
話すようになった出来事があります。

体育会系のクラブに入ったと聞かされて、
保護司と対象者と言った関係だけでなく、
年齢の違いはあれ体育会系のクラブの経験者と
言うことで親近感が生まれたのだと思います。
こちらも過去の経験を話しますし、練習方法や
冬季練習のことなどでは話が弾みました。
そのことを契機に自分のことや家族のことも
話すようになり、面談も充実してきました。

ただ、入ったクラブの競技については未経験で、
初心者が簡単にレギュラーになれるとは
考えられませんでした。
もちろんレギュラーだったのかどうかは
聞けませんでしたし、大会の勝敗はいつも1回戦負け、
この子の口から試合の様子の話はなく、
もっぱら練習のことばかりでした。
もしかすると下級生の方が俊敏な動きをして
レギュラーの座を奪われていたのかもしれませんが、
この子の偉いところはその場から逃げずに
卒業まで同じクラブを続けたことです。

面談の中で楽しそうに練習のこと、部員のことを
話す姿を見ていて、この子は大丈夫、
きっと立ち直ってくれるそんな確信が生まれてきました。
心配だったのは勉強のことでした、
理数系が苦手で試験の点数がいつも低く、
本人も気にしているようでした。
いつの頃からか学期末になると成績表を持って来て
私に見せてくれました、私があれこれ言う立場に
ありませんが、理数系の話はせずに得意な教科の
成績を褒めることに徹していました。

そのうち塾に行きだして苦手科目の勉強をしだします、
クラブと両立で辛い時もあったと思いますが、
これも逃げずに続けました。
ある時、自慢げに成績表を見せてくれました、
苦手のはずの理数系の成績が一気に上がっていました。
絵に描いたような話ですが、
誰かに言われてではなく自主的に考えて行動したわけで、
この子の成長を認めるのが周囲の大人たちの役目です。

近況はわかりませんが、
きっと立派な社会人になっていると信じています。

Posted by いとう茂 at 12:27│Comments(0)
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