2012年06月19日
昔、昔、あるところに④
武腰家の日曜日です。
父親の昭夫は、早朝から釣りに出かけました。
母親の尚代は、町内の一斉清掃で不在です。
家には長男の裕一と妹の朋美、それにおじいちゃんの
七衛門の三人だけです。
おじいちゃんは縁側で新聞を読んでいます。
裕一と朋美はトーストと牛乳で朝食を食べています。
「ごちそう様、お兄ちゃんどっかいくの」
「昼から公園に行くかも知れん、朋美は」
「私は家にいる」
食器を流しに持っていき二人は時間をどうしてつぶすか
考えていました。
「朋美、宿題は済んだんか」
おじいちゃんが声を掛けました。
「もう少しだけ、あとでする」
「そうか、朋美、すまんが肩をたたいてくれんか」
おじいちゃんは肩が凝るらしく、時々、朋美に頼みます。
「ちょっとだけやで」
「すまんな」
「おじいちゃん何読んでるの」
「ちょっと面白い記事があってな」
「何?」
「うん、朋美、同期の桜て聞いたことあるか」
「ないわ、何それ」
「その同期の桜のことが新聞に載ってるんや
おじいちゃん、なんか懐かしいてなぁ」
「昔、日本の国が戦争したことがあるんやで」
「それやったら聞いたことあるわ、二度と戦争したらあかんのやろ」
「そうや、よう知ってるな」
「先生が言うてはった、南の島や特攻隊でいっぱい死なはったんやろ」
「そや、そや、おじいちゃんは戦争に行ってへんけど、
戦争にいかはる言うたら、村中の人が万歳、万歳言うて、
小旗を振って送ったもんや」
「先生な、戦争あかんいうて学校でも君が代の時立たへんにゃて」
「それはちょっと・・・・・朋美はちゃんと立たなあかんで」
「わかってる、朋美の声大きいんやで、この前、お父さんと
お兄ちゃんと三人でカラオケ行ってな、お父さんがカラオケで君が代
歌てはって、点数が96点やったんや」
「おとうさんやるやんけ」
「そんでな、次に朋美も君が代歌ってん、そしたら
おじいちゃん朋美97点やってな、お父さんがっかりしてはったわ」
「大きい声でたんやなぁ、そうやったんか、そんなら安心や」
「おじいちゃん、さっき言うてた同期の何んとかてどういう意味なん」
「せやせや、それやったな、同期の桜言うてな、海軍でも陸軍でも
兵隊さんが歌ってはったんや」
「どんな歌なん」
七衛門は、貴様と俺とは同期の桜~ 同じ航空隊の庭に咲くぅー
と歌いだしました。
「おじいちゃんもうええわ、歌へたやなぁ」
「すまん、すまん、今のな、航空隊を兵学校とか
戦車隊、部隊に代えて歌ってたんやで」
「ふーん、で、それが何なん」
「朋美、昔、おじいちゃんのお父さんに買うてもろた
少年倶楽部ていう本にな、同期の桜の子どもバージョンが
載っててな、おじいちゃんらみんなで歌うたもんや、
ええか、音痴やけど聞いときや」
君と僕とは二輪の桜ぁ
積んだ土嚢の陰に咲くぅ
どうせ花なら散らなきゃならぬ
見事散りましょ 皇国のためー
「おじいちゃん、初めて聞いたわ」
「あの頃はな、日本中が戦争一色やったんや、
誰もそれをおかしいとも思うてへんかった、
神の国の日本が負けるはずないと思うてたんやな」
「せやけど、原爆落とされて負けてしもうたんやろ」
「そうや、せやけど苦しかったんは負けてからや、
食べるもんないし、お金もあらへん、着るもんもあらへん」
「おじいちゃん苦労したんやな」
「おじいちゃんだけやあらへん、みんな苦労したんや」
「そんでこの前、焼き肉でもめた時も、おじいちゃんは
何でもええて言うたんやな、そう言うたら、おじいちゃんいつも
何出されても、おいしい、おいしい言うて
食べるもんな、戦争で苦労したんやな。
朋美な、おじいちゃんのことちょっと見直したわ」
「そうか」
「時々、わけのわからんこと言うけど、朋美は
おじいちゃんのこと好きやで」
「おおきに、おおきに朋美ぐらいやわ、そんなこと言うてくれるの」
「肩もんでくれた駄賃に100円やろ」
「おじいちゃんこの100円おかしいで」
「アーそれは前の100円や、この前出たやつは桜やけど、
これは鳳凰や、せやけどどこでも使えるさかい心配せんでええで、
せやけど、無駄遣いせんように郵便局に預金しとくのもええけどな」
「ありがとう」
昭夫夫婦がいない日曜日、七衛門は思わぬ形で
名誉回復をしました。
長く生きていることはそれだけ経験があるということです。
親から子へ伝えるものもありますが、祖父から孫へ
伝えるものもたくさんあります。
例えば、介護だってそうです。
お母さんがおじいさんの介護をするのを見て育った子どもの心には
いたわりや思いやりがしっかり根付いていると思います。
それが、成長して他者を思いやる優しさとして花開くことを願います。
この先、家族の前でへまをしたときに朋美が盾になって
くれるか保証はありません。
子どもは無邪気で残酷な生き物だから・・・・。
七衛門の活躍を期待しつつ
続きを 乞うご期待
父親の昭夫は、早朝から釣りに出かけました。
母親の尚代は、町内の一斉清掃で不在です。
家には長男の裕一と妹の朋美、それにおじいちゃんの
七衛門の三人だけです。
おじいちゃんは縁側で新聞を読んでいます。
裕一と朋美はトーストと牛乳で朝食を食べています。
「ごちそう様、お兄ちゃんどっかいくの」
「昼から公園に行くかも知れん、朋美は」
「私は家にいる」
食器を流しに持っていき二人は時間をどうしてつぶすか
考えていました。
「朋美、宿題は済んだんか」
おじいちゃんが声を掛けました。
「もう少しだけ、あとでする」
「そうか、朋美、すまんが肩をたたいてくれんか」
おじいちゃんは肩が凝るらしく、時々、朋美に頼みます。
「ちょっとだけやで」
「すまんな」
「おじいちゃん何読んでるの」
「ちょっと面白い記事があってな」
「何?」
「うん、朋美、同期の桜て聞いたことあるか」
「ないわ、何それ」
「その同期の桜のことが新聞に載ってるんや
おじいちゃん、なんか懐かしいてなぁ」
「昔、日本の国が戦争したことがあるんやで」
「それやったら聞いたことあるわ、二度と戦争したらあかんのやろ」
「そうや、よう知ってるな」
「先生が言うてはった、南の島や特攻隊でいっぱい死なはったんやろ」
「そや、そや、おじいちゃんは戦争に行ってへんけど、
戦争にいかはる言うたら、村中の人が万歳、万歳言うて、
小旗を振って送ったもんや」
「先生な、戦争あかんいうて学校でも君が代の時立たへんにゃて」
「それはちょっと・・・・・朋美はちゃんと立たなあかんで」
「わかってる、朋美の声大きいんやで、この前、お父さんと
お兄ちゃんと三人でカラオケ行ってな、お父さんがカラオケで君が代
歌てはって、点数が96点やったんや」
「おとうさんやるやんけ」
「そんでな、次に朋美も君が代歌ってん、そしたら
おじいちゃん朋美97点やってな、お父さんがっかりしてはったわ」
「大きい声でたんやなぁ、そうやったんか、そんなら安心や」
「おじいちゃん、さっき言うてた同期の何んとかてどういう意味なん」
「せやせや、それやったな、同期の桜言うてな、海軍でも陸軍でも
兵隊さんが歌ってはったんや」
「どんな歌なん」
七衛門は、貴様と俺とは同期の桜~ 同じ航空隊の庭に咲くぅー
と歌いだしました。
「おじいちゃんもうええわ、歌へたやなぁ」
「すまん、すまん、今のな、航空隊を兵学校とか
戦車隊、部隊に代えて歌ってたんやで」
「ふーん、で、それが何なん」
「朋美、昔、おじいちゃんのお父さんに買うてもろた
少年倶楽部ていう本にな、同期の桜の子どもバージョンが
載っててな、おじいちゃんらみんなで歌うたもんや、
ええか、音痴やけど聞いときや」
君と僕とは二輪の桜ぁ
積んだ土嚢の陰に咲くぅ
どうせ花なら散らなきゃならぬ
見事散りましょ 皇国のためー
「おじいちゃん、初めて聞いたわ」
「あの頃はな、日本中が戦争一色やったんや、
誰もそれをおかしいとも思うてへんかった、
神の国の日本が負けるはずないと思うてたんやな」
「せやけど、原爆落とされて負けてしもうたんやろ」
「そうや、せやけど苦しかったんは負けてからや、
食べるもんないし、お金もあらへん、着るもんもあらへん」
「おじいちゃん苦労したんやな」
「おじいちゃんだけやあらへん、みんな苦労したんや」
「そんでこの前、焼き肉でもめた時も、おじいちゃんは
何でもええて言うたんやな、そう言うたら、おじいちゃんいつも
何出されても、おいしい、おいしい言うて
食べるもんな、戦争で苦労したんやな。
朋美な、おじいちゃんのことちょっと見直したわ」
「そうか」
「時々、わけのわからんこと言うけど、朋美は
おじいちゃんのこと好きやで」
「おおきに、おおきに朋美ぐらいやわ、そんなこと言うてくれるの」
「肩もんでくれた駄賃に100円やろ」
「おじいちゃんこの100円おかしいで」
「アーそれは前の100円や、この前出たやつは桜やけど、
これは鳳凰や、せやけどどこでも使えるさかい心配せんでええで、
せやけど、無駄遣いせんように郵便局に預金しとくのもええけどな」
「ありがとう」
昭夫夫婦がいない日曜日、七衛門は思わぬ形で
名誉回復をしました。
長く生きていることはそれだけ経験があるということです。
親から子へ伝えるものもありますが、祖父から孫へ
伝えるものもたくさんあります。
例えば、介護だってそうです。
お母さんがおじいさんの介護をするのを見て育った子どもの心には
いたわりや思いやりがしっかり根付いていると思います。
それが、成長して他者を思いやる優しさとして花開くことを願います。
この先、家族の前でへまをしたときに朋美が盾になって
くれるか保証はありません。
子どもは無邪気で残酷な生き物だから・・・・。
七衛門の活躍を期待しつつ
続きを 乞うご期待
Posted by いとう茂 at 16:54│Comments(0)