2021年03月06日

えこーが考えるひきこもり、不登校の課題の一つ物語


10人のお婆さんが田舎で共同生活をしていました。
人がほとんど来ない高齢者ばかりの限界集落で、昔ながらの
古民家で生活をしています。
水道と電気は来ておらずガスはプロパンガスでした。
電気が来ていませんので井戸の水はつるべでくみ上げます、
これを風呂まで運ぶのもお婆さんたちの日課でした。
若い人でも大変な重労働ですが、お婆さんたちは一人バケツ7杯ずつ運びます。
台所も土間にあり明かりは屋根の明り取りの窓とろうそくでした、食事作りも当番を決めて日替わりで全員がしています。
村には週に一度移動販売の車がやってきて、食料品や日用品、それに前の週にお婆さんたちが頼んでおいたものが届きます。
全員が車の運転免許を持っておらず自分たちで長い距離を移動できませんし、村にはバスや電車も通っていません。
最寄りのJRの駅までは歩いて50分ほどかかりますし、年金の引き出しや医者に行くときはタクシーを呼んで乗り合いで出かけます。
都会の人間から見れば不便極まりない村ですが、お婆さんたちはこの村を出ても行くところがありません。
そんな村での共同生活でしたが、ある日シゲ婆さんが立てなくなり病院に行くと、膝がかなり悪いので入院して手術ということになりました。
これまでシゲ婆さんは膝が痛いのを隠して無理をしてきました、みんながやっているのに自分だけできないと仲間外れになってしまう、きっとそんな思いで無理を重ねてきたのでしょう。
入院期間は2週間、その後リハビリに3日に一度、2か月通院と言われましたが入院はともかく、2か月のリハビリでの通院はタクシー代がかさんでとても通院できないと断りました。
医者はリハビリができないと元通り歩けるか保証できないと、強くリハビリを勧めましたが、それでもシゲ婆さんは断り自宅でできるリハビリのメニューをもらいました。
2週間に一度看護師さんが訪問して様子を見てくれることも決まりました。

居間から土間に降りる段差、部屋を移動する際にまたぐ敷居、洗濯物は二階の物干しに、井戸までは階段の上り下り、トイレとふろは母屋の外まで、バリアノンフリーを絵に描いたような家ですが、ここがお婆さんたちの終の棲家です。
さて、家に帰ったシゲ婆さんですが1週間は風呂の水くみと食事作りは、しなくていいということで休めましたが、トイレとふろは歩いて外まで行かなくてはいけません。
ひざを手術して十分に膝が曲がらず、這うように居間から土間に降りて10センチほどの敷居を越えて外まで行きます。
・・・・・・・
悪くなったら治療をしてくれる病院がある、その後のフォローもしてくれる、それはありがたいことですが、治療が終わっても戻る家の形状が元のままでは、再度病院のお世話になることは目に見えています。
家をバリアフリーにしなければ根本的な解決にはなりません。
シゲ婆さんだけが足腰が悪く他の9人は、いたって健康で歩くこともそれほど苦にしていません。
シゲ婆さんはバリアフリーの話をしましたが、誰もまともに話を聞いてくれず、そのうち慣れる、みんなこの生活をしてきたんだからシゲ婆さんだけ特別扱いはできない、みんなができていることをシゲ婆さんだけができないのはおかしい・・・・・。
いつ残りの9人のうち誰かが膝を痛めたりして歩くのが不自由になるか分かりません。
当事者はシゲ婆さんだけではなく10人全員の可能性があります、それでも9人は耳を貸しませんでした。
第三者の誰かがバリアフリーにするのに補助制度があるとか、この家だったらおよそこれくらい費用が掛かる、バリアフリーにすればこんな風に家が変わって使い勝手がよくなる、そんな説明や情報を教えていてくれたら事態も変わっていたかもしれません。

ひざを痛めて手術したものの術後がよくないシゲ婆さんは、食事作りも、風呂の水くみも出来なくなり食事の時以外は部屋から出てこなくなりました。
それでも残りの9人のうち、トモ婆さんとハルミ婆さんはシゲ婆さんにみんなと同じように仕事をするように厳しく詰め寄りました。
いくら言われても出来ないシゲ婆さんは黙ってうつむくしかなく、しわを伝って涙が流れ落ちる日が続きました。
ある日、みんなが起きると膝が悪いシゲ婆さんが起きてきません、朝食を済ませてアケ婆さんがシゲ婆さんの部屋を覗くと、部屋はきれいに整頓されていてシゲ婆さんの姿はありませんでした。
すぐにみんなで探しましたが村中探しても見当たりません。
1か月くらいはシゲ婆さんはどこに行ったのだろうと、食事の時に話題になりましたが、そのうちだれもシゲ婆さんの話をする人はおらず、シゲ婆さんの部屋はいつの間にか9人の物置に代わってしまいました。

えこーが考えるひきこもり、不登校の当事者、家族を取り巻く状況です。
膝を手術して少し良くなっても、住んでいる家の環境がよくならなければ、膝はさらに悪化してしまいます。
病院があることは大きな助けですが、バリアフリーにする大工さんも大勢必要です。
ひきこもり、不登校の支援をして当事者が外に出て生活訓練から始めようと思っても、地域の人たちの当事者や家族を見る目が変わらなければ、せっかく外に出かけた当事者が元に戻ることになります。
地域の人たちがひきこもり、不登校への理解を深める活動、この啓発活動を誰がする・・・・・。
これも課題だと考えます。

Posted by いとう茂 at 19:59│Comments(0)
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