2012年09月21日

6年4組物語④

この物語はフィクションであり
登場人物は架空の人物です


前の委員会からお盆を挟んでの委員会なので、
委員の何人かは、帰省していたのか、
井川君はほとんど誰とも顔を合わすことがありませんでした。

井川君は東北に行って、何かできないかと考えて
いましたが、帰りがどうしても飛行機になるために
費用のことが気になっていました。

委員会の二日前に井川君は田川先生に相談に
行きました。

「失礼しまーす」
「井川か、どうした、何か用か」

「はい、修学旅行のコースのことで・・・・・」
「どこに行こうと考えてるんだ」
「あのー、東北に行って向こうで何かできないか
考えているんですけど、費用的に…」

「そうか、東北支援か、費用はかかるなぁ。どこまで考えている?」
「その前に、先生、この前の杉田さんの質問ですけど」
「あー2泊3日のことか、あれは、トータルで72時間、
ただし、帰りはお迎えのこともあるので夜9時には、学校に
着くようにと職員会議で決まったよ、つまり夜は9時から
出発できるということだ」

「そうですか、じゃ、3泊4日も可能ということですね」 
「そう言うことになるが、何かあるのか」
「一応コース聞いてもらえますか」

「おーいいぞ、言ってみなさい」
「じゃ、朝1時に出発します、電車で行くと高くつくので
バスで仙台まで行きます」
「仙台までバスか、ちょっと強行軍だな」

「はい、日本海回りで行こうと思います。
地図で調べると、新潟までバスなら7・8時間で着く
計算になります。8時間としてだいたい9時です。
昼食はサービスエリアで済ますとしたら、
仙台には3時ころには着くと思います。
けど、同じ県に連泊はできないので、福島市内で泊まって、
朝早く宮城県に入り、ガレキの後片付けや

向こうの小学生との交流会、まだ、仮設住宅で暮らしている
おじいさんやおばあさんもたくさんおられるので、
何班かに分かれて慰問活動をしたいと思います。
2日目と3日目の2時か3時ころまでの時間ですが、
東北の人のために、僕らにもできることがあると思います。
通る県は、福井、石川、富山、新潟、福島、宮城、
それに大阪、京都の8県です。
それと・・・・・」
「何だ、まだ何かあるのか」
「先生、このコースがだめなら、東北の小学生で修学旅行に
行けない生徒に僕たちの費用を送ってこちらに来てもらう
プランがあります」
「自分たちの費用を送って東北から来てもらうのか」

「はい、宿泊はホームスティならそんなにお金がかかりませんし、
市民センターや学校の体育館でも泊れます。
観光に行くのも市役所のバスを借りることができたら、
お金がかからないと思います」

「でも、お前たちの修学旅行はなくなってしまうんだぞ、
それに、体育館というのは避難所を思い出して
余計に辛い思いをするんじゃないか」

「修学旅行に行けないのは、わかっています、
でも、このクラス全員で、東北の生徒と一緒に何かするって
たぶん、ないと思います、心の傷や辛い思いを少しでもわかってあげて、
一緒に寄り添ってあげることで、東北の生徒の
辛く、悲しかった体験がちょっとでも軽くなるんやったら、僕はそれで
嬉しいし、今後も交流していけたら一生の友だちや思い出になると
信じています。でも、先生の言うとおり、体育館はやめておきます」

「そうやなぁ、井川。お前の言う通りやと思うわ。
先生には、お前の優しい気持ちがよくわかるぞ。
でも、お前、確か自薦で一人やったなぁ。
みんなに、お前の情とか心が伝わると
ええのになぁ、あさってはがんばれよ
ただ、二つはあかんと思うよ。どっちかに絞って
発表せんと公平やないしな。」

田川先生は目を潤ませて、井川君のプランを
ほめました。

「ありがとうございます、もう少し正確な話ができるよう
勉強しときます、それと、一つに絞るよう努力します」

井川は胸を弾ませて職員室を後にしました。
自分のプランに誰が賛成してくれるか、委員の顔を
思い浮かべていました。
でも、どちらにするか決めかねていました。

(角田君の案には6票だろ、山田君は2票、
それに藤田君が乗り気だし3票か、
杉田さんもプランを出してくるから6票、
古谷君は角田君に行きそうだから、
角田君は7票か、全部で16票、残り22票、
過半数の20票以上をとるには北川君7票、清田さん5票、草野君6票、
中山さん3票、全員の賛成がいる。
難しいなぁ、僕のプランに賛成してくれたらええんやけど、
他薦の支持をした人は全員その人に賛成せなあかんのかな、
この次、先生に聞いてみんとあかんな)

そう考えるとさっきまでの膨らんだ夢が一気にしぼみ、
暗い気分になる井川君でした。

一方、職員室では、田川先生が学年主任の
南郷先生に報告をしていました。
「あのーですね、田川先生、そのプランには私は賛成できませんね、
だってそうでしょう、東北に行くということは、放射能に
汚染されることも考えられますし、保護者からの
反対も考えられます。風評被害で波風が立つのも
考えなければいけませんし、

教育委員会も何か言ってくるかもしれません。
せっかく5年間積み立てたお金を
他人のために使うのは反対です。
それに、向こうから来てもらうと言っても、一クラスくらいしか、
こちらには呼べないのでしょう、公平ではないですね。
心とか情とか分からなくはないですが、もっと理にかなった
方法があるはずです、修学旅行は学校行事の一つです。
無難な所へ行って無事故で帰ってくるのが一番です、
とにかく私は反対です。以上、私の答えです」

南郷先生に言ったのが間違いだったと田川先生は
反省をしていました。井川、スマン。
もし、井川のプランが採用されても、このままでは
6年生の学年会議では南郷先生の猛反対で
実現しないことは目に見えていました。


さあ、いよいよ8月20日を迎えます。
ここでコースが決まるのか、まだ続くのか・・・・ 
 


Posted by いとう茂 at 11:55│Comments(0)
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