2013年10月16日

ハンセン病

この前、教育テレビでハンセン病の報道をしていました。
香川県にある大島青松園の施設を大学生がボランティアで
視察に訪れた人を案内していました。

納骨堂の映像では多くの骨壺が並べられていましたが、
そのほとんどは生家に引き取られることなくここでひっそりと
眠り、親兄弟と同じ墓に入ることはないということでした。

入所者の平均年齢は80歳を超えています。
あと何年かで療養所は閉鎖されるのだろうが、納骨堂の
遺骨は誰が管理をしてくれるのか、国の政策で強制的に
施設に入れられ、以来一度も故郷の土を踏むことなく
80年近く療養所暮らし、国は自分たちの遺骨の世話をし続けると
言ってほしい。

切実な声が流れてきました。
自分の遺骨を入れる壺を焼く老人の言葉です。

昔、石川洋さんの本で岡山県にある長島愛生園のことは知っていましたが、
大島青松園のことは塔和子さんと吉永小百合さんとのつながりを
新聞で知ってからでした。
その塔和子さんも8月に亡くなられ、時々、詩を読むのですが
悔しさを夢で包んだ文字が心を打ちます。

国立のハンセン病療養所は13あり、入所者は昨年5月で2,134人
平均年齢は82歳を超えています。

日の当たらない中でずっと暮らし続けている人がいるのです。
入所者同士の結婚は認められていますが、不妊、避妊手術が
施されます。

隔離政策などハンセン病患者への対応は賛否両論あります。
当時の医療技術を考えれば仕方ない対応とする考え、
人間の尊厳という観点からは当然糾弾される処置です。

しかし、一番悔しい思いをしたのは患者本人です。
なりたくてなった病気ではありませんし、幼い子供が
突然親兄弟と引き裂かれて隔離される。

切なくやり切れない思いに襲われましたが、
こうして何やかやと不平、不満を言いながらも生きている私たちに
ハンセン病の老人たちはしっかり生きて二度と自分たちのような
不幸を味わわせることがないように、差別や偏見をなくしてほしいと
訴えているのでしょう。

戦争、人権、原発事故をはじめとした差別による不幸は私たちの周りに
いっぱいあります、舗装道路の下の小石や堀に沈む石垣、
普段目にすることはないものもこの社会を構成する一員である
ことを心する必要性を強要されているみたいです。

金子みすゞの、みえぬけれどもあるんだよ、みえぬものでもあるんだよ
ここでもそれに気付かされました。

以前にもアップしましたが塔和子さんの詩を紹介します。

距 離


      なぜ
      もう私のあなたではないのだろう
        あなたの手
            顔
            足
      すべてが
      なんのかわりもなく
      あなたなのに
      そしてこんなに身近くいるのに
        あなたである
        あなたはどこ
      あなたの愛情に満ちた目差し
      やさしい心
      ちよっとした冗談
      それらは
      すでに私から遠くはなれてしまった
      あなたがいる
      いまさらどこをつかんで
      あなたと呼ぶことができるだろう
      けれども
        あなたの肉体に包まれて
          遠くを思っている
            あなたがいる


 幸 福

      私のつややかな髪と
      燃える唇は
      あなたの愛と愛撫をうけて
      勤めに出る戸口で
      今朝別れたばかりのあなたを恋しがっている
      人が人を愛するということは
      なんと素適なことだろう
      世界が二人のためにあるような
      この日をどうして忘れることができるでしょう
      あなたは五十五歳
      私は四十三歳
      未だ人生の盛り
      これからの何年このように幸せにいられるでしょうか
      ああ
      二人のためにある世界よ
      永遠に続け
      そして
      二人の幸せが消えることがないように

 いまは蛹の


      誰がすねようといじくろうと
      私の運命は私の上にだけ開ける
      絹の衣にくるもうと甘い言葉でくるもうと
      時と運命が
      私の上に微笑まなければ蛹のまま
      私は
      もえる心の繭の中の一匹の蛹で
      すらりとした足と
      美しい羽で飛び立つ日を夢見
      華麗な花のほほ笑みが私を迎える夏の日を思い
      ああけれども
      いまは
      あわい光に包まれて
      眠るともなく覚めるともなく
      どっぷりと夢のつまった重い体を
      どうすることも出来ないで
      ただ油汗をにじませている
      不格好で不器用な蛹
      あなたが悪戯っ気をおこして
      ふと踏みつけたくなるとしても
      さして不思議ではないような
      まことにあやうく無防備な生きざまを
      運命の細い糸がおりなすうすい幕の中にゆだねて
      ばねのように
      時が微笑する瞬間を
      さしてあてがあるでもなく
      まんざらないと思ってもいず
      いまは蛹の
      私はながい待ち時間

Posted by いとう茂 at 12:16│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。